ゼロイン・レポート 振り込め詐欺
振り込め詐欺 その実態
嘘と裏切りと不信と金
小器用に色々なシステムを使用する彼らは、金だけがすべてという犯罪者だった。
振り込め詐欺は、グループ内部の者が、自らの仲間を信頼せず、毛嫌いし、憎悪を込めて語る世界だった。
実態をレポートする。
目森一喜 on zero-in
佐藤則雄(仮名22歳)が振り込め詐欺を始めたのは十九歳の時だった。不良仲間の紹介で入った闇金融業からの転進だった。
闇金の仕事は、他の金融業者から買った顧客名簿を見て、片っ端から電話をかけるというものであった。
「ぶっちゃけ闇金ですけど、借りないですか?」
と持ちかけ、一万円、二万円の金を貸し、三日ほどで倍返しさせるのである。
「闇金は細かかった。チリも積もればでやっていました」
闇金だけでは大きな儲けにならないというので、社長が詐欺を思いたった。その二年ほど前からあった「オレオレ詐欺」がチラホラ話題になり始めた頃だった。社長は知り合いから、振り込め詐欺というものがあると教えられたのである。
金が欲しかった佐藤は声をかけられるとすぐに乗った。
五人の詐欺グループが集まった。社長は闇金融の会社を金融と詐欺とに分けた。
それぞれに部屋をあてがわれ、名簿、携帯電話、通帳を渡され、架空請求詐欺を始めた。
「出会い系サイトに加入した時の資料があるんです。携帯番号と名前です」
そうした名簿を手に入れ、出会い系サイトの顧客に片っ端から電話をかける。中には、本名を登録している客もいたという。
名簿は本物のサイトからの裏流出だった。サイトの誰から出ているかはわからない。間に人が入っているからである。
出会い系サイトの正規料金は五千円ほどだが、彼らは十倍、二十倍の請求をする。それでも「客」は払った。
「振り込みがなければ、法的処置をとらせていただきます」
言葉こそていねいだが、あからさまな脅しをかけて金をむしりとった。支払いを拒否する客がいると、回収業者のコワイ人が行く事になると脅した。
詐欺をやっている間、佐藤は架空の世界の住人だった。仲間内であっても偽名で通した。みんな鈴木に佐藤に林だった。使っている携帯は「トバシ」だった。
トバシ携帯は、悪質販売店が、一人の客に何台も売った事にして名義を誤魔化し、裏に流すプリペイド携帯である。
携帯は常に二台は持っており、三日に一度は取り替えた。グループの全員が同じように取り替えた。週に十台二十台の携帯が必要だが、トバシ携帯の業者は即納だった。大量のトバシ携帯が流通しているのである。
彼らは電話をかけるために確保した部屋を「現場」と呼ぶ。詐欺の「現場」なのである。
「現場」は、たいていワンルーム・マンションの一室である。そこで電話をかけ、相手を騙し、脅し、金を振り込ませる。
彼らは、架空名義で保証人もなしに現場となる物件を借りる。そのため、不動産業者に法外な賃貸料を求められる。そうした不動産業者は、何もかもわかっていて貸しているのである。
不動産屋の他、いくつもの業者が詐欺の周辺に存在する。
振り込め詐欺は、名簿、携帯、通帳(銀行口座)、現場、人がそろわなければ成り立たないが、それぞれの業者がいて、詐欺の生み出す金に群がっている。
通帳は、ブローカーが三万円程度で買ったものを八万円、九万円で佐藤たちに売る。
通帳には、彼らの言葉で言う「抜き」がつきものだという。
「抜き」とは、詐欺被害者から口座に入った金を、詐欺グループよりも先に引き出してしまう事である。抜きと同時に口座は閉鎖され、手も足も出なくなる。
そういう口座は、
「モバイルがついている」
のである。モバイルとは、モバイル・バンキングの事だ。モバイルを設定してあれば、携帯電話に入金が通知される他、様々な処理ができるのである。
最初に通帳を作った者なのか、間に入ったブローカーなのか、抜きは誰がやったかわからない。仲介業者との接点である外回り役の人間が、仲間から抜く場合すらある。
「抜きはフツーにある」
と佐藤は平然と言う。抜きを前提に口座を使わねばならないのである。そのため、抜きの対抗策として下ろし屋もいる。
下ろし屋は、コンビニの前で待機していて、入金の連絡ですぐに金を下ろす。
しかし、この下ろし屋が、ひったくりにあったと言って、金を着服する事もあるという。
「上手い奴は自分で鼻殴って、血を出して来ます」
騙しの追いかけっこが繰り広げられる。しかし、百万円、二百万円の金が抜かれても、彼らはいちいち気にかけない。騒げる立場ではないという事もあるが、それ以上に、その程度の金にこだわる必要がないほど大きな金を動かしているのである。百万円で騒ぐより、一千万円、一億円稼ぐ方が効率がいい。
億単位の金が動くと同時に誰も信頼できない。それが振り込め詐欺の世界である。
マニュアルがあると言われるが、自分で作るものだという。佐藤たちはミーティングを繰り返し、ノウハウを作り上げた。
「結局、個人プレイだし、ほとんどがアドリブなんです」
稼げる者は稼げるし、だめな者は稼げない。稼げる者であっても、名簿が悪いとうまく行かない。名簿によって稼ぎが左右されるのだという。
「いい名簿だと、メールの中身まで乗っています」
出会い系で出したメールが人に知られているのである。客は冷や汗もので金を出す。
様々な名簿が出回っている。教員名簿、有名学校の卒業生名簿、医者の名簿、高額納税者名簿、銀行員の持ち出したものまである。また、変わったところでは、騙された被害者の名簿もある。一度騙された人は、何度も被害にあいやすいのだという。
これらの名簿はオレオレ詐欺向けであるという。佐藤は出会い系サイトの回収詐欺専門だったため、こうした名簿が回ってきても使い道がなかった。
「回収は、エロ・サイトを使った奴相手ですからね、やりやすい。自分は、やはり、年寄りを騙すオレオレは出来ません」
スケベ野郎を騙すのは平気なのである。そこが、佐藤の線引きだった。振り込め詐欺と言っても、回収の架空請求とオレオレ詐欺は、やっている者の気質などに違いがあるのだという。
オレオレをやっている者には、街で殴る蹴るの喧嘩などした事もない、表面的には真面目な者が多いという。
「ドン・キ(ホーテ)でパトカーの音を買って来て、現場で流しながら、一人で五人分の役をこなして、泣いたり、わめいたりするんです。頭が良くないと出来ないですよ」
佐藤の仲間の一人が、
「オレオレ詐欺は劇団一人」
だと言った。実感なのだろう。
佐藤の現場は都内にあるが、地元は埼玉である。地元に帰って会う仲間の五人に三人は詐欺をやっている。オレオレの者もいて、情報交換をする。
「稼ぎはオレオレのがはるかに上です」
上の者にはわからない、下のつながりがある。下の者同士で引き抜きをしあい、グループを作る事もある。上が知らないうちに、下が勝手にやっていて、摘発されてはじめて上が気がつき、慌てる場合もあるという。
その反対に、突然、
「今後、一切関係ないから」
と言い捨てて、上がやめてしまう事もある。
きわめて身勝手で、自己中心的な関係なのだ。まさに、つながりは金だけなのである。
佐藤のグループでは、外回りの者がいつの間にかオレオレ詐欺をはじめていた。知らん顔をして、二つのグループに通帳や名簿を回していたのである。
「オレオレの奴らは、現場が八割持っていくんですよ」
オレオレはリスクが大きいため、取り分も多いのである。
物件、携帯電話、通帳といったものの費用は現場持ちとなる。名簿はグループで持つ。入った金から、それ以外の経費を引いた額から取り分が分けられる。オレオレの場合、八割を現場が取る。一千万円入ったら、ほぼ七百万円を現場が取る。金は入った時に、すぐに分ける。オレオレの場合、億単位の金が常に動いている状態だという。
二十歳代でベンツのCクラスを乗り回す者もいれば、親に家を買ってやった者もいる。
詐欺グループには、独特のファッションがあるという。
「夏だと、アルマーニのニット帽、ナイキの半ズボン、手首に数珠をつけて、グループ全員が同じバッグを持っていたりね」
ドルガバも好まれる。グループ全員が全身ブランド物でキメている事もある。
ヘアスタイルは短髪で、有名人で言えばサッカーの中田の髪型が基本だという。
回収詐欺をやっていた佐藤はオレオレとちがい、受け取るのは入った金の一割で、月にならすと五、六十万円だったという。
特に短髪ではなく、数珠もつけていない佐藤だが、それでも、六十万円の腕時計をしていた。
稼ぎの一割は貯金したが、他はキャバクラをはじめとして風俗での遊び、服装や身につける物、車で使い果たした。
若くして、一生遊んで暮らせるだけの金をつかむ。そんな彼らの中に、ホストクラブ、キャバクラ、不動産業、金融業などを始める者がいる。事業を始めるのは二十歳代で大きな金を持っていても不自然ではないからだ。金を儲けるよりも、持っている金を表に出すために事業を始めるのである。
だが、そうやって勝ち上がれない者たちもいる。
ブランドに金をかけ、遊びまわっても、使い切れないほど金が貯まる。だが、あいつは金を貯めていると知られると狙われる。狙うのは仲間である。
人によっては、二十歳そこそこで億単位の現金を持っているが、その金を銀行に預ける事が出来ないし、警察沙汰は鬼門だ。そのため、仲間たちに強盗されてしまうのである。
稼いで逃げおおせた者も大勢いるが、稼いだ金を全部盗られてしまう者も数え切れないほどいるのだという。オレオレ詐欺をやれる精神性の者たちには、仲間意識などない。
だから、高価な時計を持っていても、佐藤は仲間と会う時には安い時計をはめ、金のないふりをするのだという。本当の仲間だと信じている数少ない者以外は「敵」だと思っている。
「自分らより年下の、十九、二十歳以下の連中、金のためなら何でもやるって奴多いですよ」
何でもと言っても人殺しをやるわけではない。欲望のために手段を選ばず、金で人を裏切るのである。
自分のグループの金庫を他の者に強盗させ、分け前を受け取った者もいたという。
これまで不良と言えば、暴力的ではあったが、男らしさの美意識を持ち、プライドがあった。不良なりの仁義、仲間意識を持っていた。独特な人間らしさがあった。だが、オレオレ詐欺グループに従来の人間らしさはない。金だけなのだ。頭はいいが、陰湿で、すべてが計算ずくという、冷たい不気味さを持った新しい世代なのである。
大きな金が動く事から、よく、振り込め詐欺が暴力団の資金源となっていると言われる。だが、そうした事はないという。
「上納は考えられない。そんな事になったら、現場が逃げ出して、他に行ってしまいます」
と、佐藤は言う。
詐欺グループがヤクザと関係しても、何のメリットもない。
グループへの忠誠心などカケラもない現場は、すぐに逃げ去って、別の所で詐欺を始める。ヤクザに頼らなくても、金さえあれば現場、名簿、携帯、通帳がそろうのである。
また、ヤクザとしても、詐欺グループと接点を持つメリットはないのだという。
あるヤクザ関係者は、
「オレオレ詐欺に手を出すどころか、やっている者と交際しているだけでも破門、絶縁ですよ。年寄りを騙すなんて、任侠道に反する行為だからね。ヤクザ人生と引き換えに詐欺じゃね、男じゃないでしょう。何かと言えば、資金源資金源と言われるけど、冗談じゃないよ」
と断言した。昨日今日、事務所に出入りしはじめた半人前の者ならいざ知らず、一人前のヤクザが振り込め詐欺に関与する事はありえないという。
ヤクザという古い体質の存在と、義理も人情もないオレオレ詐欺グループは、気質的に水と油なのである。ヤクザに振り込め詐欺グループの管理は不可能と言っていい。
これを、一体のもののように認識してしまうのは、警察が振り込め詐欺グループのような新しい世代の意識、精神性、犯罪に追いついていないからである。
警察は、グループ犯となったら、条件反射で暴力団と結びつけているだけである。
オレオレの若者たちは、グループでありながら、個々バラバラである。彼らには上下関係もないし、横の信頼もない。金のために平気で仲間を裏切る彼らには、その場限りの金のつながりがあるだけで、すべてが使い捨てである。
このような新世代の犯罪は、警察が最も苦手とするところなのだ。そこで、わかりやすく、暴力団の資金源と見てしまうのである。そこには、二十歳そこそこの若者たちの一団を捕まえるより、暴力団を捕まえる方が手柄になるといった事情もあるかもしれない。
だが、彼らは、従来の視点からは見えにくいが、独自に存在している。暴力団とは別物なのだ。そして、より悪質な一面を持っている。何でもかんでも暴力団と結びつけ、資金源とするのは事実に反している。
「あんたエロ・サイトを使っただろ、奥さんや会社にバレたらマズイだろ」
とばかりに、三年間、回収詐欺をやって来た佐藤は、平成十八年の三月、架空請求詐欺をやめた。ニュースなどで騒がれるようになり、儲けが少なくなってしまったからである。
「儲からなくてもリスクは同じです。ハイリスク・ハイリターンを求めてやって来たんで、ハイリスク・ローリターンじゃ意味がないんでやめました」
短期間で儲けてやめる。このクールさが新世代のものだ。佐藤は、その中でも体質が古い方である。オレオレをはじめ、下の世代には、もっと人間性の希薄な者たちが出てきている。
オレオレ詐欺は、元々、早稲田の大学生がはじめたという伝説がある。この学生は大金をせしめ、闇に消えて行った。オレオレ詐欺の初期の人間たちは、もう現場にいない。今、オレオレ詐欺をやっているのは、ここ一、二年で入って来た者たちであると言う。
振り込め詐欺は、仲間意識などまったくない、冷たく非人間的で、計算高いだけの若者たちの世代による、新しい犯罪なのである。
(これは、2007年に取材し、『読売ウイークリー』に掲載した原稿に手を入れたものである。)



