自費出版を殺すな! 6 /ゼロイン・コラム
―消費者を惑わせる誤情報を斬る―
「リスク負担型商業出版」という幻想
JanJan「文芸社・新風舎の盛衰と自費出版」連載の疑問 5
渡邉勝利 on zero-in
松田まゆみ氏は長期にわたる JANJANの連載の中で「契約の面から見ると、協力・共同型出版はリスク負担型商業出版であり、自費出版とは全く異なるものであることを、『著者』はしっかり理解する必要があります」と主張している。
下記の記事もそうした論調の一つだ。
「筆者はリスク負担型の商業出版を全面的に否定するつもりはありません。ただし、著者が負担する費用の見積を出版社に任せてしまうのではなく、著者が印刷会社から見積をもらい印刷会社に直接代金を支払う。また編集やデザインは社内で行うのではなく外注にし、著者が編集者やデザイナーに直接費用を支払うなどの方法をとり、それ以外の経費は出版社負担とするなど、費用の支払いを明確にすべきです。そうすれば、出版社も必ずリスクを負うことになりますから、ほとんど売れないような作品にまで協力・共同型出版を推奨することなど不可能になり、異常としか思えない賞ビジネスや勧誘合戦も収束するはずです。大半の作品には従来の自費出版が適用され、良心的な自費出版社が生き残れるでしょう」(文芸社・新風舎の盛衰と自費出版⑥自費出版のあるべき姿2006/10/30)
だが、松田氏のいう「リスク負担型の商業出版」というものは本当にあり得るものだろうか?
松田氏は出版にかかる費用を「リスク」と表現したものだろう。ただ、ビジネスとして考えた場合、「リスク」とはそれを負担することによって、それに見合う「プラス」が将来発生するということが前提になければならない。
つまり出版において、製作費を先に負担することによって本が売れれば、最初に負担した出版費用を回収し、その上利益が得られるということだ。
しかし共同出版なるものが、著者と出版社の間で出版契約がなされる場合、通常は500部から1000部の発行契約となる。つまり、もともと利益どころか出版費用の回収さえできない出版契約である。
このことを考えれば、著者が出版社と契約する場合、契約金から何部売れば元が取れるのかは、簡単に計算できるものである。共同出版系の出版部数では、どのように計算しても元は取れないことは明らかだ。
つまり、出版する本が売れる見込みがなければ「リスク負担型商業出版」なるものは成立しないが、それならば最初から出版社は商業出版をするはずだ。だから、500部~1000部の共同出版で「リスク負担型商業出版」という事業はそもそも成立しない。共同出版とは自費出版だから成り立つビジネスなのだ。
しかし松田氏は、著者が厳しくチェックすれば「リスク負担型商業出版」も成立し、「協力・共同出版を推奨することなど不可能になる」と書いている。出版社が悪質な共同出版を続けることができるのは著者の「負担金」を不正に流用しているからだと主張する。
だから次のような馬鹿げた「指導」を著者にしてしまうのだ。
「著者が負担する費用の見積を出版社に任せてしまうのではなく、著者が印刷会社から見積をもらい印刷会社に直接代金を支払う。また編集やデザインは社内で行うのではなく外注にし、著者が編集者やデザイナーに直接費用を支払うなどの方法をとり、それ以外の経費は出版社負担とするなど、費用の支払いを明確にすべきです」(前出JANJAN記事)
印刷と製本、編集とデザインを著者が別のところに発注することによって、出版費用の内訳を明確にすべきという論旨を松田氏は書いている。
だが出版社とは編集、印刷、発行を一貫して行うところであり、それゆえ、著者が出版する場合の要望と利便性が賄えるところである。
そもそもその利便性があるから著者は出版社と契約するのだ。著者にしても500部1000部の本をつくるのに、そこまで自分でやろうとする人が何人いるだろうか?それは特別な事情がある場合であり、それを一般的な水準としてもとめることは愚かである。
かりに著者が編集プロダクション、印刷会社、製本所等と別々に契約をして本が出版できたとしても、ISBNの取得や取次会社との取引コードが取得できなければ、書店へ流通することはできない。松田氏のいう「リスク管理型商業出版」における出版社の役割とメリットが筆者にはよく理解できない。著者にとってはトラブルを減らすどころか手間が増えて返ってトラブルが増えることになりかねない。
松田氏がこの記事で主張する共同出版問題の解決法とは、出版社の機能を否定することに他ならない。しかしもともと「リスク負担型の商業出版」を積極的にやろうとする出版社などいないのだから論理は空回りしている。誰にとってもメリットの無い不毛の論理なのである。
「共同出版」の問題の本質は、「出版社のリスク負担の不正」の問題ではない。自費出版社が経営拡大しょうとするときに踏み込んだ誤った道筋にある
新風舎、文芸社、碧天舎以外にも、似たような手法をとっている出版社は多数あったし、それら各社はどこも松田氏のいう「リスク負担型商業出版」などという大げさな名前の事業など手掛けてはいない。過剰な演出をした自費出版を行っていただけである。
その中の急成長事業者が問題を発生させ、同時に経営能力の欠陥が破綻を招き、被害者を発生させた。これは破綻企業の管財人によって明らかにされた事実である。
書店に「並ぶ」ことと「売れて儲かる」ということは、一般の商業出版であっても、同じ意味ではない。自費出版の場合はそれ以前に「書店へ流通する」ということ自体に難しさがある。
自費出版から、ベストセラー作品が生まれるようになった現在でも自費出版物を書店に扱ってもらうのは難しいという状況は変わらないが、筆者もその偏見を打ち破るために作品の質を高め、流通に評価されるような自費出版を作ることに努力してきた人間の一人である。だからこそ「共同出版」の問題は自費出版の問題として考えなければならないと言ってきた。
そして、いまや「共同出版」が自費出版であるということは業界では当たり前になった。松田氏だけがそれを認めず、JANJANという影響力のある媒体で誤った主張を展開しつづけ、消費者を混乱させた責任は大きいのではないか。
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