日本映画ビジネス基礎講座 9 /ゼロイン・コラム

日本映画は本当に儲かっているのか?? 第9回

悩むシネコン、悶える映画館

斉藤守彦 on zero-in



 昨年年末の段階での、我が国映画館数(スクリーン数)は、実に3359。2006年に3000スクリーンの大台を超えてからは、新規開業のシネコンと廃業する既存館の数が拮抗し、一時期ほどのオープンは続かなくなったものの、それでも2007年の3221に対して、138スクリーンもの映画館が新たに増えたということは、未だ我が国映画マーケットが、拡大しつつあることを物語っています。
 ところが、前年における我が国映画館の興行収入は、トータルで1948億3600万円。これを先に挙げたスクリーン数で割ってみると、年間における1スクリーンあたりの興行収入が算出出来ます。
 5800万4168円。これが昨年における、我が国映画館1スクリーンあたりの平均興収です。さてこの額から判断して、果たして今、映画館は儲かっているのでしょうか?そうではないのでしょうか?
 答えは後者のほう。シネコンが年間を通して黒字を出すためには、1スクリーンあたり7000~8000万円の興行収入が必要と言われています。ただしこれは、あくまで平均値であり、損益分岐点は各シネコンの展開スケール、経営方法にも大きく左右されます。にも関わらず、昨今興行関係者と会うと、皆が皆「儲かりまへんわあ…」が合い言葉のように交わされる今日この頃。
 なぜシネコンが、映画館が儲からなくなっているか。その最大の理由は単純です。つまり、大ヒット作がないから。特に外国映画のここ数年の興行不振は、目を覆いたくなる始末。対する日本映画は、相変わらずテレビ局様のお作りになられた映画が、たくさんの観客を動員していますが、これとて一時期のように、テレビ局が絡んでいれば何でもかんでもヒット!!という状況ではなくなっています。試しにデータを見てみますと、2001年1本、2002年1本、2003年3本、2004年4本、2005年2本、2006年2本、2007年1本、2008年1本と、興行収入100億円以上の、いわゆる「大ヒット作」の数が2004年をピークに減少していることが分かります。ちなみに今年上半期は、目下のところ100億円以上はゼロ本。肝心なのは、この間、スクリーン数は増え続け、マーケットが拡大していることです。通常のビジネスでは、マーケットの拡大は、収入の拡大に繋がります。ところが映画の場合、逆にマーケットが拡大したにも関わらず、年間興収は2000億円前後と横ばい状態。当然1スクリーンあたりの興収は減少するという、バッド・スパイラルに陥っているわけです。
 スクリーン数が増えるということは、例えば同一地域に他社のシネコンがオープンした場合、これまではヒット作を独占出来た既存館の権益が侵されることになります。例え興収100億円を超える大ヒット作が出たとしても、同一地区のシネコンとの同時上映となれば、単純計算しても収入は半分。東京の新宿地区には一昨年、昨年とシネコン「新宿バルト9」と「新宿ピカデリー」が続けてオープンしましたが、この影響で歌舞伎町の映画館はまったくの不振となり、60年の歴史を持つ新宿ジョイシネマ1~3、そして新宿トーアが閉館。新宿コマ劇場再開発を理由に新宿プラザ、新宿コマ東宝もまた閉館してしまいました。現在の新宿地区のシェアは、バルト9が40%、新宿ピカデリー40%、歌舞伎町の映画館群が20%と言われています。今日も歌舞伎町で営業を続けている、新宿ミラノ1~3とシネマスクエアとうきゅう、新宿アカデミー、グランドオデヲン、新宿オスカーは、いずれもシネコン定義(映連によるもので、「同一地区」「同一経営者」「同一名称」を使用する「5スクリーン以上の映画館」)には該当しない施設ばかり。現在の興行環境から考えると、時代遅れなことは否めません。
 次にシネコンが儲からなくなっている理由をあげれば、家賃の高さ。これにつきるでしょう。
 シネコンの多くが、既存の商業施設の中にテナントとして営業をしているわけですから、当然テナント料、家賃がデベロッパーや家主との間に発生します。前述したヒット作の少なさに加えて、この家賃負担がシネコンの経営を圧迫しているという意見を耳にすることが多いのですが、それはもう、仕方ありません。場所を借りて営業をしている以上、家賃は払わなくてはならないものです。シネコンの家賃というのは、毎月の固定額を支払う方法、月の興行収入のパーセンテージ(15%程度が主流とか)を支払う方法などがありますが、毎月固定額となると、確かにキツいですね。そもそも映画という商品は、いくら事前に「大ヒット間違いなし!!」と言われていても、その期待が裏切られることもあり(昨今の洋画は、こうしたかけ声倒れが実に多い)、また1年中、観客がロビイから溢れていることはなく、年間を通して稼働する時期も限られてきます。ではシネコンなんてやめてしまえば良いのでは?と考えますが、出店の段階でデベロッパーと交わした契約が、それを阻止します。シネコンの賃貸契約は、短いものでも15年。だいたい20年前後が契約期間だといいます。その期間内に自らの意思で撤退しようと思えば、当然違約金を支払わなければなりません。
 そもそもなぜそんな不利な契約を結んでしまったのかといえば、出店の話があった際、「うちが出なければ、他のシネコン業者が出店する」という危機感から、多少不利な契約でも受け入れてしまったというのが実態だと聞きます。 ただしこういうこともあります。現在我が国において、大きなシェアを持つ松竹、東宝、東映とその関連会社によるシネコン・チェーンは、不満を漏らしながら高い家賃を支払っていますが、その親会社は逆に、自社物件の一部を異業種に貸すことで、安定した家賃収入を得ており、それは映画会社の経営を支える基盤にまでなっています。
 自分たちが借りる立場になった時だけ「高い」「負けろ」などというのは、道理が通らないというものです。



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